解釈とか解説じゃないよ。淡々とした手法の話。
Auramorte(@Auramorte)の中の人、蟻坂だよ。ご機嫌いかが。
そういえば自分作詞はあんまり苦労しないなぁと思ったので、じゃあそこの説明やってみよー、と思いたったはいいものの、 どうも感性に依存しているらしくうまく説明できないことが判明。
かといって何も言わないのは一番よくないので、ここはひとつ読み手の理解力に委ねて、デモEP「屋根裏童話」の歌詞を使って技術的(?)なところを説明してみるよ。
断っておくけど歌詞の解釈とか説明は一切しないのでそこんとこよろしく。この記事は哲学でも芸術でもなく国語の記事。
「屋根裏童話」の歌詞で使っている技法など
技法なんて仰々しい言葉使ってるけど、別に大したことしてない……と思う。
1. 直喩
国語の時間で習ったかな。「直喩」。つまり、「〜のようだ」みたいな感じで直接ある対象を別の対象で置き換えて例える技法ね。
1番のAメロ。
涙で塗り固めたような整う顔は笑顔を知らずに
糸に絡め囚われた蝶が悟る絶望に似ていて
「塗り固めたような」「蝶が悟る絶望に似ていて」。わかりやすいね。こんな風に、直接的表現を回避するときの常套手段として直喩は使えるし、一番簡単。
2. 換喩
ある対象を表すとき部分を持って全体を表現することで例える方法。メトニミーとも言う。
さっきの1番のAメロだと
糸に絡め囚われた蝶
この「糸」は「蜘蛛の糸」を指しているのはなんとなくわかるよね。つまり「蜘蛛」を「糸」に置き換えているわけ。蜘蛛と言えば糸でしょ?こんな風に連想するの。
歌詞から外れるけど、例えば「羽」で「鳥」を換喩したり、「赤」で「血液」を換喩したり、ある対象を構成するパーツで表現できるならなんでも使えるので、結構便利だよ。文学だと登場人物を外見の特徴(「せむし」「赤髪」「八重歯」など)で表すのもよく見かけるね。
3. 擬人法
これも国語の時間で習ったよね。人じゃないモノを人が行う行為とか人の部位を使って表現する方法。
2番のBメロから。
窮屈な空は口を開かず石の天井を吊り下げ迫る
空に口なんか無いけど口を開かない空がいるね。こういうこと。簡単だよね。
4. 隠喩
なんかの比喩といわれて連想するもので一番思いつきやすいのは直喩とコレなんじゃないかな。メタファーとも言うね。
さっきの2番のBメロだと
石の天井を吊り下げ迫る
ここが隠喩。空は石じゃないし吊り下げる天井もないんだけど、この一文で分厚い雲が眼前にいっぱい広がっている様が想像できると思う。で、それが何を表現しているのかはまた別の話。
ほかにも「屋根裏童話」の歌詞の中だと隠喩は結構使っているよ。2番のAメロからもう1フレーズ。
無音の銃声が今日もまた誰かを撃ち殺したとして、
それを「天使」と呼ぶならば、僕らは憎むべき「悪魔」となろう。
銃声は一般に音がするものだけど、じゃあ「無音の銃声」ってなんだ?という連想ができる。当然暗喩。で、その「無音の銃声」で「誰かを撃ち殺す」ような存在をなぜ「天使」と呼ぶ客体がこのフレーズにいるのだろう?という暗喩。 銃声と天使、ついでに悪魔は全部暗喩のつもり。
で、多くを語らないことで読者に解釈させるスキを与えるのが作詞の面白い所。だけどやりすぎると解読ができなくなっちゃってただの怪文書なので、使い所はわきまえてね。
あ、そうそう、そもそも屋根裏<グルニエ>自体が何らかのメタファとして作用してるのは言うまでもないね。
5. 敷衍
意味を伝えたいがためにいろいろ詳細に説明する方法。掘り下げって言えばわかりやすいかも。説明系の文章だと例え話とかを使って説明するのがそれにあたる。あ、「ふえん」って読むよ。
2番のサビはまるまるそんな感じ。
祈る指を解いてナイフを握るのならば、
孤独に膿むその手を取ろう。ロザリオと引き換えに。
祈るの止めてナイフを手に取れってだけなんだけど、やたら遠回しな言い方をして強調してるつもり。 さらにこのフレーズには比喩もいくつか入れていて、
- 祈る指を解く = 祈るのを止める の文学的な言い回し
- ナイフを握る = 祈る(パッシブな状態)から、ナイフを持つ(戦い・攻撃性・アクティブな状態)へと転じる。アンチテーゼ(これはこれで修辞技法のひとつ)
- ロザリオと引き換えに = ロザリオは祈りの道具。ナイフと引き換え→もう祈らない→パッシブな状態には戻らないことの暗示
という具合に、今読み返すと結構複雑なフレーズになってるかも。どういう意味なのかはやっぱり秘密。
ところで、この節自体が一種の敷衍だね。
6. 非日常的な単語
これは僕のたんなるクセなんだけど、調べないと分からない単語を差し込む。
「屋根裏童話」だと以下の単語がそれにあたるかなー。
- グランギニョル
- イデア
- イリヤ
- テアトル
- グルニエ
今は情報社会なのでちょっと調べればすぐわかる。そこがポイント。何いってんのかさっぱり分からないのではなくて、読み解いたらニヤリとくるようなギミックとして作用させるのがいいよね。
ただやりすぎるとどっかの怪しいコンサルの書く文章みたいになるので、ここぞという場面で使ってね。
「屋根裏童話」の場合、歌詞の1番と2番で対比して使ったり、
少女の時は止まり、永遠はイデアとなる (引用註: 1番)
少女の時が動き、始まりはイリヤとなる (引用註: 大サビ)
「グルニエ」はキーフレーズなのでサビの最後にそれぞれ差し込むなど、
[1サビ]
少女の時は止まり、永遠はイデアとなる
屋根裏<グルニエ>には「夢にも見たおとぎの国」なんて、ないのに。
[2サビ]
“童話の始まりこそ悪夢の総て”と言うなら
主の居ない屋根裏<グルニエ>など、炎と消えてしまえばいい。
[3サビ]
少女の時が動き、始まりはイリヤとなる
――それは、屋根裏<グルニエ>から産まれ落ちた、世界を侵す物語。
パターン化して「重要単語」みたいな扱いにしてるつもり。
7.発語しないフレーズ
歌詞に書いてあったら全部歌わなきゃダメかっていうとそうでもないと思う。
「屋根裏童話」は文章上の強調、最後の決めのフレーズの意味を込めて、最後の最後に発語しないフレーズが1つだけある。
――それは、屋根裏<グルニエ>から産まれ落ちた、世界を侵す物語。
この「それは」は楽曲中では発語してない。つまりメロディがない。だけど、表現上これを付けないといけなかったので付けた、といった感じ。
これに限らず考えたフレーズを何が何でも歌う必要はないので、もしメロディに当てはめるのに困っているならこういう突破の仕方も良いと思う。
おわりに
実は感性の赴くままにさっさと書き上げた歌詞をセルフ分析したという記事なので、文章表現の当てはめ方は必ずしも正しいとは言えないかもしれない。けど、体系的にわかれば少しは役に立つかな?参考になればいいな。
ちなみに今回題材に取り上げた「屋根裏童話」は以下のページから購入可能です。
1st Demo “屋根裏童話” – Auramorte Official BOOTH –
買うのが嫌ならこのページの上の方にあるプレイヤーで聴けるから、それでもいいよ(歌詞カードは買わないと手にはいらないけどね!)。