明確化しておきたい内容とそうでない内容があるので、新譜『Q』の解説という名の自分語り。
Auramorte(@Auramorte)の中の人、蟻坂だよ。ご機嫌いかが。
新譜出ました。
この記事を読んでいるような人には今更な情報ですが、
Auramorteの新譜『Q』出ました。3曲入りです。クロスフェードデモはこちら。
いつものようにヘヴィでキッチュな音楽……なのはもちろんのこと、今回は3曲のラインナップなのでメッセージのつながりをいつもより意識してみた。 しかし、迂遠な表現を多用しているのでイマイチ伝わりにくいかもしれないし、音色的な部分なんて細かすぎて伝わらないと思う。 そこで、本記事で「伝えたいけどたぶん伝わってないこと」を補完してみることにする。
楽曲のメッセージの一部
もちろん全部解説したら面白くないのでピックアップして説明していくよ。
Tr.1 「ゴチカ・インダストリアリス」
この曲はタイトルが上手く言ったナァと勝手に思っている。
というのも、インダストリ「アリス」という文字列が偶発的に生まれたため。
わぁ、ゴシックだわ!ということでよくある童話モチーフのアリスが混ざり込んでいるように見えて全く関係ない。というミスリードが狙えたのでひねくれもの的にはとても良いタイトルになったんじゃないだろうか。
ちなみに「Gothica industriaris」というラテン語をカタカナにしただけなので本当に関係ない。
インダストリアリス、つまり「産業の」ということで、機械の動作を連想させるようなリズムを意識したり、
「消費されていく幻想」「産まれては消えていく記号的な薄皮」「所詮消費の傀儡」といったフレーズで批判的に書いてあるつもり。
近年経営が苦しいとはいえ、各種ゴシック・ロリータのアパレルブランドは、春に新作、夏に軽めのコーデ、冬にはコートやカーディガンの新作、そして年末年始に福袋……と、際限なく「商品」を生み出し、「経済を回す」ことを至上の論理とする経済に組み込まれている。それ自体は不可欠なものであるが、さて、それを自己目的化することが我々の理念や哲学と必ずしも沿うものであろうか?
かといって彼らを経済の枠組みから外したら、それらのコーディネートによって外殻が成立する我々もまた影響を受ける。という、答えの出ない逡巡をしてみてほしいところ。そんな曲です。
一応この曲単体として答えに近いメッセージを出しつつはあるけど、本質的に「簡単に答えは出ない」。
Tr.2 「聖痕」
シオランを読んでいたら生まれて頑張ること自体が無為に思えてきたので書いた曲。二番がないので短いです。
精神医学の用語に「スティグマ」というものがある。詳しくは調べてほしいんだけど、それをそのまんま日本語に変換したのがこの曲名だったりする。
Auramorteとしては珍しくかなり直球な歌詞だし、歌詞カードも文字列が歪んでいて読みづらいし、曲は短いし、Cメロで室内楽風になるし、といろいろ実験した作品。
結果的にシオラン関係なくて「死は尊い!」みたいな路線に行っちゃってるけど、これはまぁ僕の考えがブレンドされて別の解釈に飛んでいったということで、ふだん蟻坂が何を考えているのか拾う材料にでもしてくれればよろしい。
音色面としてはアコーディオンとピアノでアグレッシヴに動かしつつ、3拍子、Cメロの劇的な展開という感じで「異端」を表現した。異端なのは存在ではなく考え方のほうね。
奇しくもこの異様さが次のリードトラック「Q」よりウケてしまったらしい。発表した作品というのは自分のコントロール下を離れるものなのだね。
Tr.3 「Q」
Tr.1、Tr.2に対するアンサーソング。アンサーなのに「Q」というタイトルとはこれ如何に。
この曲は「リードトラックにするぞ!キラーチューンにしなくては!」という意志が先行したので、どキャッチーに仕上がっている、はず。それゆえにTr.2と比べると素直すぎるトラックに仕上がっちゃったかなというのが反省点でもある。
一応素直なトラックであるということで、ここまで逡巡してきた内容に対してひとつ真っ直ぐな道筋を示すような曲であるよ、という暗喩の意図もこもっていたりする。
歌詞もキラーチューンであるためというのもあって言葉選びにはけっこう気を使っていて、Tr.1やTr.2の疑問に対してひとつの答えを出すための「道標」を書くように意識した。
ということでこの曲についてあまり書きすぎると解釈の余地がなくなっちゃうので、あまり語らないでおくことにする。
新譜全体を通して試したこと
ここからは音色のこだわり、つまり作曲やってる人じゃないと何いってんだかよくわからないことの話。
ストリングスを「貶める」
Tr.1で産業的なものへの批判、Tr.2で異端的な死への思考、とレールを外れたことをやったので、「ゴシック」を標榜する音楽をやる者としてやっておきたいことがあった。
それは「ストリングス音源をおかしな用法で使う」こと。
先駆者の「ゴシック」という分野な同人音楽だったりそこら編のひとたちは猫も杓子もストリングス使っているので、じゃあ我々も使ってやるよ、ただし主役からは外して徹底的に貶めた使い方をしてやる。という感じ。
ただし、「産業的」というテーマを掲げたTr.1では素直にストリングスアンサンブルとして使用している。その程度の存在だと言わんばかりに。
問題は次のTr.2のほうで、普通に聞いたらどこで使ってるのかまったくわからないと思う。それもそのはず、イントロやBメロで左右から聞こえてくるカチコチ言ってるノイズがそれだからだ。 これ、「コル・レーニョ」という、ヴァイオリンの弓ではなく柄のほうで弦を擦ることでパーカッシヴな音を出す奏法を採用し、更に加工してノイズっぽい音を出している。旋律楽器として表現力の高いストリングスをノイズに貶めるということができたのでとても満足。
そしてTr.3は音を加工してシンセのパッドみたいな音になっている。リフのところね。
使うならばこれくらいやらないと、と思ったので個人的にはすごくやってて面白かったポイント。改めて聴いてみるとはっとするかもよ。
技術面の細かすぎて伝わらない話
ひとつ前の旧譜「屋根裏偽曲」と比べて大きく変化している箇所の話をしよう。といっても作り手の自己満足っぽいところがあるんだけど。
何言ってるかわかんなくても容赦してね。
- ギターの音作りを変更
ギターはソフトウェアアンプシミュレーターを使っていて、前作はOverloud TH-Uを使っていた。
しかしモダンメタル向けながっつりした音がもっと欲しかったので、NeuralDSP Fortin Caliを今回から導入。すごくモダンな音が出るようになりました。 - スネアの音作りをかなり時間かけた
ドラムはBFD3というソフトウェア音源をつかって打ち込みをしているのだけど、今回から拡張音源の「Crush」のスネアに変更。 さらにミックス段階でかなり音作りを詰めていて、EQやコンプの他に「JST Clip」「Soundtoys Decapitator」で潰したり倍音を付加して中低域をパワーアップ。 前作よりクリスプに、かつ生々しい音に仕上がったのでだいたい満足。欲を言えばPeriheryみたいに猛烈なアタックのある音を出せるようになりたい。
おわりに
とっちらかっている文章で申し訳ないけど、楽曲面、技術面でこだわったけどきっと伝わってないであろうことはこんな感じ。
これらを踏まえた上でよーく音色や歌詞を眺めてみると、また新たな発見があるかもしれないね。購入は以下のリンクから!