鵜呑みにしちゃだめだけどそれなりに有用な本。 Auramorteの蟻坂(@4risaka)です。ご機嫌いかが。
この間表題の一冊の本を買ったよ。
で、「モチベーション」というタイトルが入っている割には総合的に心理学・行動経済学の実験をいろいろ書いているところが良いかも、と思ったので、若干批判的にとらえつつ紹介してみるよ。
『図解モチベーション大百科』大雑把紹介
ひとことで言うと「行動経済学・心理学の実験をたくさん紹介して、自己啓発書テイストにまとめた本」。正直キュレーションメディアっぽい側面があるんだけど、「実験について最低限名称と発見者の名前を書いてある」のでファクトとしては大丈夫。
色んな心理効果を網羅した本
記載されている実験は100個。それぞれ著者によりカテゴリ分けがされているよ。
- 動機づけ
- 人材育成
- 目標設定
- 意思決定
- 人脈作り
- 自己管理
- 発想転換
ご覧の通りどちらかといえばビジネス的、たとえば会社で出世するとか起業するとかその方向で有益になるように、著者による調整がなされている印象があるかも。
だけど、「動機づけ」というのはまことしやかに囁かれる内発的動機づけとか、ハードルの下げ方とか、わかりやすいものだと心理的リアクタンスのようなものも説明されている。このほか、人脈作りとか発想転換のカテゴリは、今この記事をお読みのクリエイターなあなたにとっても「なるほど」と思える実験を知ることができるんじゃないかと思う。
でね、この節でいいたいことなんだけど、これだけ大量に心理学・行動経済学の実験をひたすら列挙した本というのは実はありそうでなくて、その点が非常に有用だ、ってこと。
内容とか解釈そのものはちゃんとした資料で拾って、辞典の逆引きのように「これこれこういう心理学の効果って何ていうんだっけ?」と思ったときの参照先として使うのが良いと思う。1冊に集まっているのでネットを探すよりずっと効率が良いよ。
図が多く要点を抑えていてわかりやすい
それらの実験は一体何をやって、その結果どんな効果が観測できたのかというのを図を使って説明してるよ。
だから、初めて知ったものでもどういうことをした結果何を得られたのかがわかりやすい。もちろん、この本だけでは不足があるし、中には実験を実施した年代が古くて今のフレームワークでは別の実験がなされているものもあるので、やっぱり前節に挙げたようにあとで自分で調べるのはちゃんとやったほうがいい。
だけど、門戸の叩き方としてはすっと入ってくれるので、大雑把に「なんか使えそうなのないかな」と思ったときに便利だね。
個人的に刺さったこととか
個人的にふむ、と思う実験を2つほど紹介するよ。(本あんまり関係ないね)
「同族嫌悪」
Dartmouth大学のJudith B. White氏による論文から。
Horizontal Hostility: Multiple Minority Groups and Differentiation from the Mainstream
本に書いてあるのは、ベジタリアンとヴィーガンにそれぞれ「一般の人と比べて相手をどう思うか」という質問をすると、 ヴィーガンのほうが偏見が3倍多かった……という話。ちなみに元の論文は実験グループをベジタリアンとヴィーガン以外にもいろいろ試している(これだけだとnが無さすぎなので当たり前だけど)。
あるマイノリティのグループのうち、よりメインストリームに近い方(この場合ベジタリアン)と、そうではなくよりマイノリティに寄る方(この場合ヴィーガン)のほうが偏見が強くなるとのこと。
これはHorizontal Hostility(水平方向の敵意 = 同族嫌悪)に関する仮説を実験で示したことになるのだけれど、僕の場合ファンダメンタルなゴス故にファッション的ゴスに攻撃的になるところがあるので、そこは自戒しなきゃだなーって思った。
そうそう、これに限らずだけど、この本、実験した人の名前はあるけどソースが無いので自分で調べるなら英語は必須。
「ジャムの法則」
これは聞いたことあるかも。なぜなら元ネタをやったコロンビア大学のSheena S. Iyengar氏の本は日本語訳が出ているから。
When Choice is Demotivating: Can One Desire Too Much of a Good Thing?
で、実験というのは、店頭にジャムの試食を置く時、6個おいたときと24個とか30個おいたときの集客率と購買率を測定したというもの。結果としてはたくさん置いたほうが人は集まるけど、6個だけ置いたほうがよく買ってくれたという感じ。
バリエーションがあると迷う楽しみがあるけれど、選択が多すぎると混乱して決断しにくくなるらしい。
最近は創作をする人も色んなチャネルを用意することができるのだけれど、なんでもかんでもやって買い手を迷わせてしまってはダメなので、やっぱり絞ったほうがいいのかなぁ、などと考えたりした。
たとえば文章ならブログ、Twitter、note、mediumなどなどたくさんあるけど、全部見て回るの実際面倒でしょ。
参考文献が一番参考になるかも
一番最後のページに参考文献として本のタイトルが列挙されているのだけれど、何冊か読んだ本が混ざってた僕から言わせてもらうとこのページは非常に有用。
心理とか行動の話を勉強したいけどどこから読めばいいのかわからないという人のヘルプとしてかなり機能してくれると思う。
ダン・アリエリーの『予想どおりに不合理』、ロイ・バウマイスターの『意志力の科学』、ハイディ・グラント・ハルバーソン『やってのける』などなど。数十冊列挙されてるよ。
それぞれの分野で実績のある学者さん本人による名著が目白押しなので、この辺から気になる本を次々読んでいくと、より深い発見ができるのは間違いないよ(上3冊は個人的おすすめ)。
注意点
さて、ここまで褒めてんだかけなしてんだかよくわからない書き方をしてきたのだけれど、それもそのはず、1個気になることがあるんだ。
「超訳」がある
著者自身による解釈が当然あるのだけれど、個人的にはちょっと飛躍してる気がした。
実験の紹介はいいと思う。事実を書いてあるだけだし、探せば必ず元の資料が出てくるので、嘘をついていることもない。
だけど、ビジネスに転用したい観点からなのかその実験を解釈して自分の言葉に変換しているところがあって、それこそ心理学の「権威効果」みたいなのが作用している感じがあったので、ここは慎重に読んだほうがいいかもしれない。
「つまり」で書いてあるところと、黄色い背景で書いてあるところはそんな感じかなー。別に悪いこと書いてるわけじゃないんだけどね。「実験の結果からの考察」という観点で見ると「ん?」ってなることがあるかも。
おわりに
「人たらし用、心理効果逆引き辞典」てことでどうかひとつ(?)。